Univers

20世紀デザインの傑作をあげるとしたら、
エイドリアン・フルティガーがつくったユニバース・フォントは外せない。

ユニバースは、1898年につくられたアクジデント・グロテスクを原型として、1957年にスイスでつくられた。ローマン体の髭のような飾り「セリフ」のない、グロテスク体「サンセリフ」の書体で、有名なヘルベチカも同じスイスのサンセリフ書体である。

ヘルベチカがやや暴力的で一面的な印象しかないのに対して、ユニバースは使い方によって、シンプルで機能的で機械のような男性的なイメージから、優雅で優しい緩やかな女性的なイメージまで、幅広いイメージをつくりだすことができる。フランス語を組んでも、この書体で組まれた英語のタイトルも、ドイツ語の本文組も美しく見える。(母国語としてどのように見えるのかは定かではないが...)
じつにさまざまな世界を自由に表現できる書体である。もしもひとつしか書体を使えないとしたら、ぼくは間違いなくこの書体を選ぶ。その名のとおり世界(ユニバース)を包摂しているような書体である。

ユニバースの懐の広さは何によってもたらされるのか?

それはたぶんエイドリアン・フルティガーの職人的な細部への気遣いによるものではないかと思う。一件、単純で幾何学的に見える線は、そのほとんどが平行や直角ではなく、多くは有機的な線である。フルティガー氏の多面的な検証の末に導きだされた、直感的で人間的な線が、この書体の持つ表現の豊かさを生み出しているように思える。
ぼくにとってはとても大切な造形のお手本である。

エイドリアン・フルティガー氏の冥福と世界の平和を祈って。

清水 徹

Dedicated to Mr.Univers, Adrian Frutiger.

layout: Toru Shimizu
2015.11.13